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スプリングバンク

ソサエティ初ボトリング 1986年
道の果てにあるクラシック

キャンベルタウンまでのドライブは、いつも想定よりも長く時間がかかる。
これは、DNAや潮のみちひきと同じように、不偏の事象である。
ウイスキー好きの人間は、キンタイヤ半島の端に至るまでの蛇行する道で出会うすべての曲がり角に心躍らせる。
ウイスキーの蒸留所はそれぞれに個性を持つが、スプリングバンクはその中でも抜きに出ているだろう。
観光雑誌などで取り上げる際、キャンベルタウンに過去の建物などが現存することを前面に押し出して紹介するがそれは間違いである。
単に経済的かつ効率的という理由から、過去の遺産,遺物を残しているだけのことであり、いわゆる「過去から現在そして未来への必然的な進歩」が取り入れられていないのだ。
その結果として、この街にあるウイスキーとその蒸留所はとてもユニークなものになっている。
というのもスプリングバンクのウイスキーは近代化され合理化された手法での生産を行っていない。
(3つの現存するキャンベルタウンモルトのうちの2つを生産しており、スプリングバンクとロングロウ、残りの一つはグレンスコシアである。*訪問時)
一時キャンベルタウンの街には30近くの蒸留所があったとされ、この地域特有のウイスキーのスタイルには独自の分類がなされていた。
しかし、スプリングバンクが依然として偉大なウイスキーとして尊敬されることに必然性はある。
コンクリート板の倉庫と教会の間を通る、いまだ未舗装の古くて狭い路地を入ったところにその蒸留所はある。観光客のために造られた様な美しさはない。
合法的には1828年から蒸留されているが、実際はそれより以前から稼働していたという。
海外旅行でイタリアやギリシャの島々へ行くと、観光地化してない古い建物をみて、価値があると評価するだろう。
キャンベルタウンの街とスプリングバンク蒸留所にはこの風情があるのだ。
スプリングバンク蒸留所では、現存する蒸留所の中で唯一すべての工程を自身の施設で行う。つまり、大麦の製麦からボトリングに至るまでである。
現在大部分のモルトウイスキー蒸留所は現在、精麦工場から原料を購入する。
しかしスプリングバンクでは、今となっては非常に珍しいことであるが、大麦の発芽から製麦までの工程を伝統的なフロアモルティングにより行い、自身のキルン塔で乾燥させている。
それは伝統的かつ、人手を要する方法であり、すでに消えてしまったと思われている方法を採用している。しかし、この作業によって蒸留所のウイスキーの品質を初めから終わりまでコントロールすることができるのだ。
このようなことを可能にしているのにはいくつかの理由がある。
一つは、ビジネスが創業以来今も同じ一族の元で行われていること。
もう一つは、数字を追うがゆえの、過剰な生産をしないということ。
ウイスキー市場の状況を判断し、生産に必要な分の大麦を購入し、精麦し、それを乾燥させる。
そして、モルトビン(麦芽保管塔)に最大200トンの麦芽大麦を貯蔵すると、蒸留を始める。平均的な年で、スチルの稼働期間はわずか4ヶ月間である。
これは、すべての工程つまり、大麦をフロアモルティングによって発芽させ、キルンでそれを乾燥させ、次いで糖化、発酵、蒸留までを同じ人間の手によって行うことで実行可能となる。
同時にスプリングバンクの小さな瓶詰め工場は一年中稼働している。
スプリングバンクの99%はシングルモルトとして瓶詰めされる。
これも非常に珍しいことである。 30年の間、蒸留作業をしてきたジョン・マクドゥーガル氏は、コンピュータ制御のマイクロチップが埋め込まれたようなウイスキーはスプリングバンクにとっては無縁の
彼のウイスキーは、本当の人の手によって作られてきたのだ。
実際スプリングバンクは24名の従業員を抱えている。
これは、近代化された蒸留所の2倍以上だ。
しかし醸造家のヘクター・ガットは、2年前に伝統的なフロアモルティングの施設を再導入した際には、文明の力の導入はやむを得なかったと語った。発芽した大麦は、芝刈り機に似た機械によって攪拌されるのだ。
けれども、これが完璧なものではない。機械が壊れたとき、ヘクターはため息をつきながら、壁にかけてあった古い木製のシャベルに手を伸ばし、人間の力によって昔ながらの方法で穀物を攪拌するのだと言う。
キルンにも変化があったというが、我々が気づくことはおそらくないだろう。
乾燥のために使われる泥炭は、現在アイラ島から持ち込まれている。
かつて蒸留所は地元の泥炭地帯を所有し、ここを管理する2名の従業員は4月から10月までの間この素晴らしい香味を齎すピートの採掘のために姿を消した。
今ではヘビーピートのロングロウは毎年生産されているわけではない。
スプリングバンクには3つのスチルが並んでいるが、これはウイスキーが3回蒸留されるというわけではない。
正確に言えば、2,5回蒸留するのだ。この仕組みは複雑なのでいくらかの説明が必要だろう。
発酵の終わった6つのカラマツ製のウォッシュバックのいずれかから、その液体はウォッシュスチルに移され、直火によって加熱される。これには、内部を攪拌し燃焼を防止するための「ラメジャー」(銅製の鎖帷子状のもの)が必要になる。
ここで得た蒸留液(ローワイン)は2つあるスピリットスチルで再び蒸留される。
スプリングバンクの大きな特長の1つは、 その"ボディー"である。何人かのテイスターは、それを“噛み応えのある品質”と呼んでいる。
ウイスキーはそのアルコール濃度が上がるにつれて、油分が失われ軽い酒精となっていく。
そのため、蒸留所は、二回目の蒸留のスピリットスチルで得た液体に、一番はじめのウォッシュスチルでの蒸留で得たローワインを少量加えて3度目の蒸留を行う。
どれだけ追加するかは、経験と細やかな判断にゆだねられている。
これをコンピュータにプログラムすることはできない。
その後、スピリッツは長い眠りにつく。
スプリングバンクのウイスキーは12,15,21,25および30年でボトリングされる。
(二回蒸留されたロングロウは、通常19年でボトリング)
きっと、この偉大なキャンベルタウンの“生き残り”であるスプリングバンクを口に含んでみれば、なぜそれが素晴らしいのか理解できるであろう。

1828
稼働中
Campbeltown, PA28 6EX
キャンベルタウン