Jump to Content
ダルモア
ソサエティ初ボトリング 1983年
北の大聖堂
〜油田、サッカーボール、ワニ〜
その蒸留所を見つけ出すことは容易なことではない。
どうぞ、こちらですといった、見せびらかすような蒸留所ではまったくないのだ。
入り口付近に看板こそあるが、その看板には立ち入り禁止とだけ書かれている。
入場を許可されるのは予約者か、関係者のみ。
もし入場許可が取れたとしても、入り口からその蒸留所を見つけるのも、また一苦労する。
A9を北に向かい、インバネスを離れ、ケソック橋を渡る。
そこには驚くほど緑の美しいブラックアイルがあり、それを横目にクロマティー湾の峠を横切る。
道路が東に向かうにつれ、太平洋の技術を集約したかのような広大で錆び付いた石油リグが遺跡であるかのように佇んでいるのが見える。
蒸留所に向かうにはB817を通り、アルネスの村を抜けて主要道路を横断すれば、右側に門があり、岸辺と石油リグに再び出るドライブウェイがある。
北に行くと、海面よりも下ではないか思うほど海から近いところに駐車するスペースがある。
イエロー・レッド・ストーンの古い建物があちこちに並んでいて、そこには、小さな中庭と水が流れ込む石の谷がある。
比較的新しい建物もたくさんあり、現代のニーズに合わせた建物と、古く趣のあるものとが混在している。
ヘリテージセンターは豪華なものではない。もちろんである。
訪問者を奨励しない蒸留所であることを覚えているだろうか。
アシスタントマネージャーのドリュー・シンクレアが私たちに周囲を案内してくれた。
マネージャーのスティーブ氏はあいにく葬儀に出向いており、不在であった。
ドリューは28年前に庫手としてここで働き始め、彼の父親がそうであったように、蒸留所のすべての仕事を経験してきた。
彼はドナルド・ダネット、(ウェアハウスの管理責任者)を紹介してくれた。
ダネットやシンクレアという名前は、スコットランド北東部にはよくある名前だ。
ドナルドの3人の息子もまた、蒸留所で勤務しているという。
ドリューは、麦芽用タービンを通過して粉砕機に案内してくれた。
ぼんやりと角には、麦芽コンベアの駆動に使用されていた、単気筒の水蒸気エンジンが置かれている。
現在はもう一つの垂直型エンジンが稼働しているが、水蒸気エンジンのペイントはまだまだ新しく、蒸気弁を開けると車輪がゆっくりと回転し始めるのではと想像させられる。
ミルルーム自体は非常に広大で、栗色に塗装されたミルと混成機は目の高さより上に持ち上げられている。
ミルはマッシュごとに14トンの麦芽を粉砕し、ステンレス製のマッシュタンに入れられ、そこで出来た麦汁は8つの木製のウォッシュバックに移される。
砂糖が抽出された後のモルトの残渣であるドラフは、広いパイプを介してホッパーに吹き付けられる。
2つのプラスチック製のフットボールが不自然にラックに横たわっていた。
ドリューはこのサッカーボールがパイプを掃除するために使用されていることを教えてくれた。
彼らはパイプの口径に完全にフィットし、吹き飛ばされることによってドラフを全て排出しきる。
フットボールがちょうどパイプに合ったのか、またはパイプがフットボールを考慮して作られたものであるのかは、ドリューは言及しなかった。
ウォッシュは4つの不思議な形をした、天辺が平たいウォッシュスチルに充填される。
スチルルーム自体はそんなに大きなものではないが、まるで大聖堂にいるかのような感覚を持たされる。
身廊のいずれかの先には4つのスチル、2つのウォッシュスチルと2つのスピリットスチルのセットがある。
1筋の袖廊の先にはスピリットセーフがあり、その4つは全て真鍮で出来ている。
スチルマンの仕事は水辺のワニのようである。リラックスしながらも注意を払っているのだ。
スピリットスチルもまた奇妙な形をしている。
玉ねぎの球根のようなスチルは他のオニオン型のスチルと同じくらいエレガントであるが、タマネギが芽吹いているかのようにパイプが滑らかに上昇しているのではなく、上部には銅の柱があり、その頂上から銅製のシリンダーが出ているのだ。
銅シリンダーにはウォータージャケットがあり、このウォータージャケットは最初の凝縮をもたらすものであるため、最も揮発性の高い蒸気のみが凝縮器によって適切な部分だけ取り出される。
スチルは非常にゆっくり働き、スチルマンは狭いミドルカットを取り出し、最高のスピリッツだけがスチルを離れるようにする。
その結果、成熟したウィスキーがそうであるように、ニューメイクにも明らかな違いが出ている。
スピリッツはスチルから出たばかりでも非常に美味しい。
大麦の香りがより濃く出ている。
成熟したウィスキーではそのような香りはあまり出ていないが、驚くことではない。
その後、フィリングストアからカスクに詰められそして熟成庫に移される。
ダルモアでは、シェリーとバーボン両方の樽を使用している。
これはブレンド用のウィスキーとして大きな需要があり、よく知られる多くのブレンデッドウィスキーに、独特の豊かな香味を与えている。
そしてシングルモルトとしての需要が高いことも言うまでもないだろう。
私たちはスティーブ氏のオフィスで、ドリューとドラムを交わした。かつてそこは収税吏室として使われていた場所で、オーク製のパネルが今も取り付けられている。
ドリューがクリスタルグラスに注ぐドラムの量の多さにはびっくりしたが、少量だけ注ぐ事はグラスに対して失礼だと彼女は説明する。
繊細で敏感に変化し続ける一杯を飲み、そして楽しむ事。
これはダルモアが掲げる新しいコンセプトであり、試してみる価値のあるものだ。
この感覚的で繊細な一杯のウィスキーを時に観察し、品質の指標を知ることと同時に神秘的な特性を見つけ出すことができる。
そうしているうちに、グラスからウィスキーは急速に消えてなくなっている可能性もあるのだ。
ドリューの注ぐドラムの量は、それに気づかせてくれるための布石なのかもしれない。
そして幸いなことに、ダルモア蒸留所はフル稼働中であり、その気づきのための処方薬は容易に手に入ることができるのだ。
設立年
1839
状態
稼働中
場所
Alness, IV17 0UT
地域
ハイランド