ウイスキー概論

ウイスキーの醗酵の泡について業界30年の専門家が解説【ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティ】【ウイスキー概論13】

「ウイスキーの醗酵の泡について詳しく知りたい。」

この疑問に、ウイスキー業界30年の専門家がお答えします。

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細井さん

1. ウイスキーの醗酵の泡について

清澄な麦汁の取得と大量の酵母添加があると醗酵醪は10時間もすれば激しい炭酸ガスの放出で、醗酵タンク上部のスペースを泡で埋め尽くす。

巨大なコップにビールの泡が充満している感じ。

ビールと同じでこの泡がないと良いウイスキーは生まれないのだ。

清澄な麦汁が取得できればエステル香が高くなると以前に説明した。

とすれば高泡が発生すればエステル香が高くなると言うわけだ。

逆に泡の発生しない醪はエステルが出ない。

また別の視点で観察すると、泡には酵母が集まる。

液中よりも酵母密度が高くなる。

密度が高くなれば周りの糖分を一気に食い尽くす。

液中よりもいち早く飢餓状態になる。

その時酵母は生きていくために、枯渇した糖分以外の養分として脂質を食べ始める。

脂質を食べるモードに切り替わるのだ。

さながらダイエットで皮下脂肪を燃焼させるが如くだ。

その時脂肪燃焼には酸素が必要となるが、開放タンクだから炭酸ガスが抜けると共にうまい具合に泡には酸素が巻き込まれる。

これで脂質燃焼の条件は整った。

後は摂取する脂質である。

それは死滅した酵母の膜脂質である。

オートファジーやオートリゼー(自己消化)という言葉が示すように酵母を構成していた脂質が、その死を境に分解した後エネルギーとして再利用されるわけである。

やや専門的な説明がこれから続くがお許しを!死滅した酵母から放たれたオレイン酸やパルミトオレイン酸という脂肪酸の鎖分子が、まだ生存している酵母によって摂食され酸化分解されてエネルギーに変わっていく。

所謂共食い(カニバリズム)だ。

但しここである条件が重なると完全に酸化分解されてエネルギーとはならずに、途中で分解反応がストップすることがある。

その時に限ってγラクトンというピーチやココナッツの甘い香りの余韻を持ったインパクトのある香気成分が生成するわけだ。

そのある条件というのが、乳酸菌がこのカニバリズムの挟間に入り込むことだ。

どういうことかというと、この死滅した酵母から放たれるオレイン酸とパルミトオレイン酸という脂肪酸は二重結合を一つだけ持つ不飽和脂肪酸である。

乳酸菌が旺盛に活躍すると、生存酵母に食べられる前にこれらの不飽和脂肪酸を水酸化脂肪酸に変えてしまう。

その変化した脂肪酸を摂食した生存酵母は、先に述べたように酸化分解が途中でストップしてしまう。

すると分子内環状エステルであるγラクトンという甘い香気成分が生み出されることとなる。

つまり、老化死滅酵母⇨乳酸菌⇨生残り酵母の順に香気成分生成のリレーが起こるわけである。

老若男女、異種生物の多様性、まさにダイバーシティーが連動することで、ある種ウイスキーの深い香味に繋がるのである。

このラクトンという香味成分はウイスキー蒸留中、通常なら切り取られてしまう後留域に留出する性質がある。

そのため慎重な蒸留カットが重要となる。

最近流行の高いアルコール度数のカットでは回収できない傾向がある。

ということは出来上がった原酒においても、注いだグラスから簡単に揮発しにくい成分。

ある種のウイスキーが持つ、そこはかとなく香味に余韻を与え続ける性質にもつながる。

生命の多様性を秘めた香りのモルト、それが筆者の興味をそそる。

以上。

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