ウイスキー概論

ウイスキーの糖化について業界30年の専門家が解説【ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティ】【ウイスキー概論9】

「ウイスキーの糖化について知りたい。」

この疑問に、ウイスキー業界30年の専門家がお答えします。

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細井さん

1. ウイスキーの糖化とは

世界にはいろいろなお酒がある。

醸造酒、蒸留酒、混成酒。

当たり前だが共通点はエチルアルコールが含まれていること。

(日本の酒税法では1%以上含まれるものがお酒)醸造酒は酵母で原料をアルコール醗酵させたもの。

蒸留酒は醸造酒を蒸留したもの。

混成酒いわゆるリキュールはそれらと果汁やハーブなどをブレンドしたもの。

と大まかに考えられる。

つまりは酵母によるアルコール醗酵がお酒の必須要素であることがわかる。

酵母は糖類を食べてエチルアルコールを生成する。

その酵母が食べられる糖類には主にブドウ糖や果糖の様な単糖類(最小分子からなる糖)、ショ糖や麦芽糖の様な二糖類(単糖が2つ連結した糖)がある。

これらの糖類は水溶性で甘い。

ワインの原料となる葡萄や果実、ラムの原料のサトウキビにはこの甘い糖類が初めからあるため、それらを原料にするとそのままアルコール発酵が起きる。

これを単醗酵と呼ぶ。

それに対して単糖が長い鎖で繋がった水溶性のない澱粉が原料の場合は、そのままでは酵母が食べられず醗酵しない。

お米が原料の清酒や焼酎、大麦が原料のビールやウイスキーがそれに当たる。

その場合、澱粉を一旦糖化酵素でバラバラにして単糖や二糖にした上で、酵母を加えてアルコール醗酵させる必要がある。

これを複醗酵と呼ぶ。

さてモルトウイスキー製造は原料の麦芽を粉砕し糖化することから始まる(麦芽製造工程を省略して話を進めると)。

糖化濾過兼用釜に粉砕した麦芽と温水を加えて30分もすれば、麦芽に含まれる糖化酵素アミラーゼの作用でみるみる甘い水飴状の麦汁に変化する。

投入する温水の温度が大事である。

高すぎては酵素が失活し、低すぎては粘度が上がって濾過できなくなる。

採取した麦汁は冷却されて醗酵タンクに送られ、酵母を添加して発酵が始まる。

糖化時の麦汁の最高温度は70℃程度であるため、各種微生物は生きながらえる。

ここが100℃で煮沸するビールとは大きく異なる(ビールは製品に悪影響を及ぼす雑菌汚染を嫌い煮沸釜を使用するが、ウイスキーは最終的に蒸留してアルコールと香味だけを取り出すので煮沸の必要がない。

このことが香味に与える影響については「発酵のこと」の概論で述べる)。

また糖、アミノ酸が加熱変性するメイラード反応もビールの様には起こらずカラメル様の香気はあまり生成しない。

逆に低温が故に麦芽の持つハーバルなアルデヒド系の香りとか、粉っぽいハスクの匂いとかが良く残存するものもある。

また麦芽のヘミセルロースから変化すると思われるペンチルフランなどの甘さに寄与する香も適度な温度帯で生成残留する。

アミノ酸由来のピラジンなどの窒素化合物と相まってナッツやモルティといった香気を形成する。

糖化終了後濾過工程に入るが、ここがウイスキー造りには重要で、麦の穀皮層を壊さずに形成した濾過層により慎重に清澄な麦汁を濾しとっていく。

透き通る様なクリアな麦汁が得られたならば、次の醗酵工程で酵母がフルーティーなエステルを鮮やかに生成してくれるであろう。

これが糖化濾過の真髄である。

以上。

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