ウイスキー概論

5大ウイスキーのアイリッシュウイスキーを業界30年の専門家が解説【ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティ】【ウイスキー概論6】

「5大ウイスキーのアイリッシュウイスキーの香りについて知りたい」

この疑問に、ウイスキー業界30年の専門家がお答えします。

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細井さん

1. 5大ウイスキーの一つ「アイリッシュウイスキー」の香りのプロフィール

アイルランドに生まれたウイスキー造りの文献上の初出は、以前書いたように1172年のイングランド王ヘンリー2世のアイルランド遠征記録にある。

現地の住民がウシュク・ベーハーという蒸留酒を穀類から造っていたとある。

これがウイスキーの原形と考えられるが、その当時穀物とはどんな物だったのかが疑問である。

その製法が現在のアイリッシュウイスキー製法にも脈づいているとするならば?現存するアイリッシュの伝統的な製法がスコッチモルトと異なり、大麦麦芽のみを使用するのではなく、未発芽の大麦、オーツ麦(燕麦)、ライ麦などの原料を混醸するのは、その大昔から引き継がれた伝統が故なのではないか!この大麦以外の穀物、コストは安いが製造は手強い。

麦芽より硬いため専用のミルで苦労して砕くしかないと思う。

北米のコーンのように或いは日本の焼酎原料のように100℃まで蒸煮して糖化しやすくする方法(糊化)をとらないため、糖化濾過に際してもかなり無理に時間がかかると思われる。

加えて時間がかかれば濾過温度が下がり、おそらく清澄な麦汁を得るのは至難の技と思える。

混濁した糖化液を得るしかない。

この辺りにスコッチ製法とは大きな違いがありそう。

また、使用する麦芽は少量なのでピートの使用にも行きつかなかったと思われる。

大部分の原料である大麦等は自然乾燥だからピートは要らない。

この様にして濾過した穀物固形分が入り混じった糖化液を醗酵させた場合、酵母によるエステル系の醗酵フレーバーは弱く原料由来の穀物香が前面に出ると予想できる。

しかも北米バーボンの様に原料を蒸煮しない。

つまり100℃でクックドされた穀物の甘く芳ばしいフラン系の香気を生み出すことはない。

伝統的なアイリッシュがピート感無いうえに、生原料由来のスパイシー、ハーバルなストイックな香味が特徴になっているのはこのためと思われる。

それ故バランス次第では、香味の癖が飲みづらさに繋がる。

だから伝統的なアイリッシュは2回ではなく、3回蒸留に拘って香味のスムースさ、軽さを志向したのではないかと想像出来る。

蒸留回数を多くすれば、雑味を減らすことができる。

但しやりすぎると特徴のないニュートラルなアルコールに近付くが。

過去にアイルランドの収税吏であったイニアス・カフェが1831年に連続式蒸留機の発明発展期に特許を取ったのがこの原理の延長である。

すなわち連続式蒸留機の元祖カフェスチル。

このスチル通常のポットスチル代わりのカラムを醪塔として24段連結し、精留塔として42段連結した構造になっている。

そのため2〜3回蒸留では通常MAX70%くらいのアルコール度数の製品しか生み出せないところ、95%までアルコールを濃縮し、雑味を極限まで排除出来る様になった。

これがグレーンウイスキーである。

北米の連続蒸留機はカフェスチルよりローテクなためにフーゼルアルコールが残留してバーボンの特徴を形成するが、このカフェスチルが生み出すグレーンは癖が無い。

この件はまた後ほどお話しする。

こうして雑味のないブレンド用の安価なグレーンウイスキーが生まれた。

アイリッシュでは最近かなりの勢いで新たな蒸溜所や新たな製法の模索が始まっており、上述した製法だけでは収まらなくなってきている。

流石は進取の気勢を取り込むアイルランド人のなせる技かと感じる。

北米の蒸留酒を切り開き、翻って本国での製法探求にもアグレッシブに取り組み始めた。

スコッチが花開いた製法技術もうまく取り込んで。

以上。

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