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9.185について

このモルト極めてハーバル。フローラルなグリーン感も少しある。コメントにはタラゴン、ローズマリー、タイム、スペアミント、クローブとあり。私もミント、アニス、コリアンダーシード、そして若草の香りを感じる。青草の香りはヘキサナール、cis-3-ヘキセノールが有名。ハーバルな香りの成分としてテルペン類。サロンパスのメントール、サリチル酸、龍角散や粉胃薬のカンファー、ボルネオールなどを彷彿とする。さてこのように強いハーバルでクールなグリーン香がどこから由来するか考えてみる。ピーマンの躍動感とあるが、どこか中庸でハーバルな青さは発芽した大麦の新芽からか?それとフラワーショップの華やいだ香りに関するコメントがある。私はヒアシンスの花や花粉の匂いを感じたが、フェニルアセトアルデヒドというクールで強い香気。しかしその裏にインドールが隠れている。インドールはジャスミンの香りの引き立て役としての存在が知られる。この成分多いと恐ろしい糞臭だが、僅かに含まれるとトップノートのエンハンサーとなり、香りに強さとコクを与える。話は変わるが香水の調香の世界では、香り成分の特性によって、トップノート、ミドルノート、ベースノートと分かれる。トップノート、ミドルノートには芳しい香り成分を充てる。が、しかしベースノートには糞臭の様な成分を僅かに充てることで、トップとミドルの後引き余韻を調整する。マッコウクジラのアンバーグリス、ジャコウジカのムスク、ジャコウネコのシベットなどの大環状ラクトンがそれである。さてこのような役割をしていそうなインドールであるが、発酵微生物やその後の工程から来るとは思えない。ならば可能性の高いのは、やはり製麦段階が思い当たる。原料大麦は浸麦後発芽する。モルティングの現場に行けば分かるが、炭酸ガスとともにムッとするような息苦しい匂いに包まれる。大麦は発芽に際してオーキシン等の成長ホルモンを出して盛んに呼吸して発芽発根する。実はこのオーキシンがインドール化合物である。これから派生する匂いが麦芽に付き、その後の焙燥でもあまり消失しにくいと思われる。また製麦場の環境によっては、麦芽がオーキシン以外にも抗菌物質として他の微生物に負けないようにインドール化合物を生成している可能性がある。この様に製麦場の違いでインドール化合物から派生した成分が、そのモルトの個性に一役買っているのではないか?と考える。もう一つグリーンな香気の生まれそうなポイントを想像してみる。バイオレットとバターのコメントがあったが、ニオイスミレやメロンの代表香気に2,6ノナジエナールというのがある。グリーンで少し脂っぽい香気をもつアルデヒドだ。前出のヘキサナールというアルデヒド共に脂質からの分解成分だ。これは発酵初期立ち上げの段階で乳酸菌が旺盛に増殖した時に乳酸エチルと共に生成すると推測される。つまり酵母と乳酸菌が初めから共生して発酵しているように思う。これは後味に栗の渋皮様の余韻が残ることから推測できる。酵母と乳酸菌が対決したためpHが下がり、酵母が発酵を放棄して残糖が残った。それが蒸溜中にメイラード反応を起こしてフルフラール類の生成に至ったことが原因。この渋さはオークのタンニン感とオーバーラップしており、バーボン樽の中でオークラクトンのココナッツ感とハーバルなグリーンと共演しながら、結果的には後味のフックになっている。

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細井 健二
細井 健二
ニッカウヰスキー勤務時代に余市・仙台・ベンネビス蒸溜所の技術指導、ブレンダー、マーケティング商品開発、ワイン・スピリッツはじめ総合酒類の開発に携わっており、官能的な総合評価だけではなく、分析的な知覚判断材料として機器分析にも精通しております。