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38.31について

このモルト、流石に長期熟成感あり、穀物感は落ち着き、気品のあるハーバルな雰囲気の中で落ち着いたワッフルコーンの様な焼き菓子感か。バーボン樽香由来の穏やかな優しい甘さに包まれて夕日の余韻も何となくわかる。後味に柔らかな甘さと芳醇な果実味の調和がそう感じさせるのかも。しかしこのモルトの素性を遡るとやはり強いハーバルがあったやに思う。スコッチが他のウイスキーと異なりピンと張りつめたというか、背筋の伸びたというか、そのような誇り高さを感じる性質。私は30数年前にニッカウヰスキーに入社した時から感じていた。その要素が実はピート以外ではこのハーバルだったのかもしれない。このプラスでもなくマイナスでもない中性的な青いフレーバー。生まれは麦芽製造の段階まで遡るかもしれない。何しろハーバルに関わる成分がテルペン類だとすれば微生物ではなく植物しか生み出すことができないからだ。とすると大麦である。製麦工程で浸麦、その時大麦は発芽発根する。その時ムッとするよな青い匂いを発する。春先に野山に充満する新芽や若葉が発するフィトンチッドを想像していただければよい。また其々の製麦場では浸麦発芽床に固有の微生物叢がある。そのため麦は製麦所毎の微生物叢に対して抗菌シグナルとしての匂い成分生成に至るだろう。そうすると各々の製麦場で仕上がった麦芽に各々のハーバル感が備わる事になる。蒸溜所での糖化では70度程度の温度しかかからないので、分解されることなく温水により抽出されるだろう。然るに発酵・蒸留・貯蔵を経ても分解されることなく保存される。またこの麦芽の性質は、製麦後早めに使用する方が香気が強いのではないかと思う。過去には特殊な使用法として酵素活性を最大にするために、乾燥させない香気の強いグリーンモルトの使用などもあったが。実際30年前にスコットランドで確認した乾燥麦芽でさえ芽の部分が青くしなやかに刺激的な香りがあったのを覚えている。もう一つ植物しか生み出すことのできないこれらの成分の僅かな供給源としてはブリュワーズイーストの可能性がある。嘗てディスティラーズイーストと併用して使い古したエールビールの酵母を回収して発酵に供していた。スラリー状とか圧搾したものである。実はここにホップの精油成分テルペンが吸着しておりハーバルに影響していた可能性もある。実際のホップ由来成分は微小ながら検出されるが、モルト香気に影響を与える程度だったかどうかは定かではない。1755年サムエル・ジョンソンの辞典にはウスケボー、今のウイスキーはコーディアル即ちリキュールであったと記述がある。つまり樽貯蔵することなく蒸留したスピリッツにハーブで風味付けしたものであった。飲用目的が薬用であったためであり、所謂ジンである。偶然、必然問わず植物由来のハーバルな香りが古来から西洋の酒のアクセントとなっている。ピートになるヘザー然り、シャムロックやミントもケルトの大地にはハーブの育つ気候がある。製麦以前の生い立ちについては残念ながら検証はしていないが。例えば麦畑でのハーバルな雑草の種子との混在とか、カビに脅かされた麦が防御物質を出すとか、ひょっとしたら香りに関わる知らないことをスコットランドの大地が生み出しているのではと妄想が膨らむ。

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細井 健二
細井 健二
ニッカウヰスキー勤務時代に余市・仙台・ベンネビス蒸溜所の技術指導、ブレンダー、マーケティング商品開発、ワイン・スピリッツはじめ総合酒類の開発に携わっており、官能的な総合評価だけではなく、分析的な知覚判断材料として機器分析にも精通しております。